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ロスト・ケア読感

 良い作品に巡り会えた。それを他人に紹介したい。しかしそれを言葉にしたり文字に書いて伝えることによって自分の感動や感じたこと、考えさせられたことを相手に共感してもらうことはできない。
 ある映画を「感動の超大作」「絶対に泣ける」なんて紹介されたとしよう。その時点で「あっ、泣かせに来るやつだね」と腹のなかで思ってしまい斜に構えてしまう。そして「確かに面白いし感動したけど……」という微妙な反応だけが残る。
 本当に良いものはネタバレされても楽しむことができる。勝手に読まれていく。でもそれではだめだ。ぼくはいつか読んでもらいたいのではない。今読んでもらいたいんだ。
 そこで思いついたのが「内容に一切触れずに、触れても序盤のみだけで紹介しよう」という試みだ。これで差し障りないはずだ。


 この作品のジャンルは紛れもなく「社会派本格ミステリ」である。ある程度本を読む人にとってはこの「社会派本格ミステリ」というジャンルは鬼子……つまり奇形児のように感じるらしい。ただ、僕はこれを「社会派本格ミステリ」というしか表現することしかできないし、巻末解説の近藤史恵氏もこう表現している。
 作品自体も2006年~2011年に起きた(厳密にはこれは正しくないが)話であり時たま作品内で流れるニュースは「あぁ、こんなことあったなぁ」と思うものが入ってくる。皮肉にもこの現実で起きた点の出来事が虚構の世界で起きた点の出来事と線で繋がっていく。
なるほど、流石ミステリー文学大賞新人賞をとることだけある。まるで実際に起きた事件のルポを読んでいるかのような錯覚に陥ってしまう。難をつけるとすれば若干説明口調になっている箇所があるが気にする必要はないと思う。

 さて、次に驚いたのが参考資料の数だ。せっかくなので全部あげてみる。

・知っておきたい認知症の基本
バーンアウトの理論と実際
・「愛」なき国 介護の人材が逃げていく
・検察官になるには
・ドキュメント 検察官
・焼かれる前に語れ
・動物からの倫理学入門
・ヤバい経済学
・不透明な時代を見抜く「統計思考力」
・ロストジェネレーション さまよう2000万人
・図解これだけは知っておきたいキリスト教
・なんでもわかるキリスト教大辞典
 以上が書籍だ。それに加えてラジオ番組の
・ニュース探求ラジオDig
 介護の現場はどうなっているの?
 高齢者虐待はなぜ増え続けているのか?
 計14点。作者のリアリティー追求のための誠意が見える。介護だけではない、さまざまな問題が地獄の釜でぶくぶくと煮込まれついには溢れだしてくる。


 この作品は現代日本の抱える介護問題をテーマにした作品である。のと同時に優秀なミステリ作品でもある。片方に興味がなくても片方に興味があればついつい読み込み興奮してしまう。ぜひ一度手にとって欲しい。