描く、模倣、写す

 絵を描くことを趣味としている。とはいっても漫画を描いたり自由に落書きをするわけでもない。ひたすら、自分が好きな漫画やイラストを模写するだけだ。
 きっかけは一昨年の11月だ。仕事が暇すぎた。暇すぎるが仕事中に堂々とゲームや携帯をいじるわけにもいかない。なにか暇を潰すことはないか。ポケットから鉛筆とメモ帳をとりだす。霞だした景色を元に戻すために自分の顔を両手で叩き全神経を鉛筆を持つ手に注ぐ。
 出来上がったのは自分が目に見えてる景色とは全く違うなにかだ。黙ってメモ帳を閉じ鉛筆を転がし始める。

 ぼくは絵を描くことができない。小さい頃から絵を描くことを避けてきたというのもある。なぜ描かないのか。小さい頃に自分が描いた絵をバカにされたからだ。長男坊であり、ゲームしか取り柄がないくせに完璧主義でプライドだけは高かったぼくにとってはそれは許せないことだったんだと思う。
「絵なんて好きな奴に描かせればいい」
「うまい絵が描けるのは才能を持つ奴だけ。俺にはそういうものはない」
 夏休みの宿題や図工、美術の課題で絵を描くことがあった。しぶしぶ描いた僕の作品は周りよりも一段とひどい。それをネタにされることが多々あった。学校の校舎を描かせれば幼稚園児が描いたような作品をだし、デッサンの授業ではどす黒い色をしたリンゴがでかでかと張り出された。

 景色は無理だからせめてアニメキャラを写してみようと思った。結果は最悪。産み出されるものはお手本とはかけ離れているものだった。悔しかった。苦痛だった。それでも似せよう似せようと努力してるうちにマシになってきた。だがそれも限界に近づいてきた。描けども描けども理想とは程遠い。結局才能なんだろうか。普段絵を描く習慣はない。一ヵ月絵を描かない時もあった。その時にこんな言葉を聞いた。
「描けない描けない言ってる奴はとりあえず適当な紙に絵を描け。最低でも500枚。そこからがスタートだ」
 500枚。気の遠くなる枚数だった。でも、それをやりきればスタートラインに立てるのか。だったらやってやろうじゃないか。成長した姿を見せてやる。

 最初は苦行だった。だが、枚数を重ねるうちに無理だと思っていた構図が描けるようになってくる。ただ真似をしてるだけなのに楽しい。最初は一枚絵や棒立ちのイラストやバストアップのものを選んでいたがだんだんと動きのある絵を描くようになってきた。気づいたら両面に絵が描いてあるコピー用紙が67枚。密度はその時によって違うが飽き性な自分にとっては信じられない枚数だ。気づいたら一日中机に張り付いて絵を描くこともあった。

 今の目標はとにかく好きな絵を描きまくることだ。動きがあって、楽しそうな絵を楽しく描く。片寄るかもしれないが経験値を稼ぐには良い機会だ。巧くなるのは二年後、三年後もしかしたらもっとかかるかもしれないがのんびり、大切にやっていきたい。